(2018年12月)

浪を見に行く         岡添 眞子  

 

海風の吹きつける壱岐白き花地にくっつきてちいさく咲きぬ

海にうかぶ島が丸ごと境内という小島神社の潮時を待つ        

海の水左右にわけて現われし小島神社までの参道              

鳥居抜け小島神社の磯を行けば拝殿への径沖側にあり             

神官は帰りゆきたり さあ帰ろう参道が海にかくれる前に

この上が月讀神社 のぼりきれば小さな拝殿目と鼻の先

思い掛けず神官の居り急峻なこの階段の日日を気遣う

なだらかな登りが続く原の辻一支国王都の門への道は

右手には広がる稲田ここちよき風吹き渡るシャツ孕ませて

ま四角に柱を組みし物見櫓 河口の町には津波避難塔

階段を落ち込むように降り立ちぬ王の館の広き空間

壁ぎわに厚く敷かれた藁のあり一支国の王の寝所なりしか

しゃがまりぬ地に手の平を押し当てて一支国の王の足音を聴く      

ひんやりとしっとりとした気の中に包み込まれて深呼吸する

文政七年二月十一日没とある加賀屋要蔵とおつおやなり

椎の木をヨウゾウケヤキと言う地ありしと岡添要造明治に没す

繰り出しの位牌の中に七人の童子童女の戒名のあり

二人の子を失いし祖父母の跡取りに入りし父は祖母の弟

家 家族 大家族から核家族 一人のわたしは単身家族

樫の棒三十二本の格子拭くきょうはこれだけ浪を見に行く

 

 

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(2018年11月)

夫亡きのち         長町 昭子  

 

鎌倉の五年余を引き五十年ともに住みにしこの古家(ふるや)はも

あちこちに君の思い出詰まりおりあの部屋この部屋かの声がする

朝夕に君の恋しく涙こぼる下のまぶたのしわしわとなり          

夫逝き四月を経たりロンドンの東京の娘の夜々(よよ)の声かけ

わが帰り待ちいる君はもう居ない二匹の猫がマンションに待つ

話し相手はママ三毛と咳子(せきこ)こどもの咳子はニャーと返事す

猫小屋で生活していし猫母子ようやくマンションに慣れてきたりぬ

名を呼ぶよりチュールの一言に飛び来たるテレビコマーシャル吾に効きたり

霧ヶ峰一台で3LDK一戸が冷えるまこと神の賜物

慣れぬ手で母が育てし戦時のきゅうりふと思いつつサラダに刻む      

大雨の後に台風上陸し旧宅見に来無事に立ちおり

軒裏のペンキの部分が剥がれ落ち庭にあちこち白き破片が

マンションのエレベーターに水入(はい)り三日動かず膝悲鳴あぐ

変形性膝関節症の吾(あ)はカートを持ちて四階へ登る四苦八苦登る

スワニーというカートを頼りて常あゆむ荷物も入り便利なるかな

気に入りて求めし赤きジャケットをバザーに出しぬ賞めし君逝き

「赤ピンクおまえに似合う」真に受けてわがストックに赤ピンク多し

明日は大雨の予報を聞かず教会へ行かん礼拝にて生きる力得る故

「長町さんお元気」夫逝きし悲しみの中進行と歌作が吾を支えくれ

舞子墓園の教会納骨堂にお骨納む納骨式は寂しき儀式