(2019年4月)
写真撮りおく         後藤 善之  

死んだとき使うためだと言いきかせ写真撮りおくまともなうちに


「お母さん 風呂場で倒れて救急車で」施設長から電話が入る


長男のかなしいしあわせ始まりぬ倒れた母の後見役に


左手でまた来るからと頬なでた脳が壊れて動けぬ母の


わが母よ津波で家が無くなりしが真似て亡くなることはなりませぬ  

   
痰からみ苦しむ母の眼になみだ涙ながれて耳までとどき       

       
日に三度ご飯ですよと液体を鼻腔に挿しある管にて胃へと


胃や腸は魔法の臓器液体を固体に変えたり気体にしたり 


ふしぎです遠出をすると施設から容体悪化の電話がはいる      

    
もう一度回転寿司につれて行き皿のタワーをつくらせたくて 


七年間寝返りせずに介護五で介護用オムツLからSに


帰りしなドラッグストアで介護用前開き肌着をさがす


介護師が百をめざせと声かける九十六の萎びし母に


看取られて母はこのまま朽ちゆくか点滴を見つめてた時あり


夜八時われを廊下に待機させおしめ替えてる男介護師


うつろ眼でベッドに臥す母を見た帰りガリガリ君を食べたくなりぬ


親馬鹿の母が本物のばかになる目覚めることを忘れてしまい


寝たきりで膝が「く」の字に硬直し柩の蓋が閉められません


火葬されつまめぬ骨の欠片をば小箒つかいて掃きあつめられ


骨壺を通して伝わる温かさこの世の母の最後の温もり

 

 

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(2019年3月)

ひとの一生         おだにりょういち  

 

産声をあげる赤子の写メールを主役の代わる側にたち見る

オムツには年齢のあり宛がうに零歳あれば百歳もある

もと兵の乳児と競うはいはいは匍匐だということを忘れる

引力にあらがいつづけ幼児は地球の上に立ちあがりたり

児のよこで負かしたはずの恐竜が目を開けたまま添い寝している

ジュリーとか呼ばれし歌手の体形を妻いわざれどわれに重ねる

息を吐き腹へこませて乗る妻は体重計に罪をかぶせる

老いてなお美醜のあるを妻なげく身のだぶつきに変化なけれど

再利用可能かどうかその前の臓器提供できる歳超ゆ

介護はや想定範囲になるらしく施設のチラシ妻は捨てざる

われ先のあとの話を妻つづけ生命保険の額にゆきつく

ひげを剃り村医者の顔しあげ終え髪うすくなるをすこし気にする

ボランティアにゆく心理ふとよぎれどもあいまいにして時間のみ経つ

われにもうボランティアの力なし風ふかずとも転び倒れる

わが頬を撫でるがごとき風にさえ大丈夫かと声かけられる

老いすすみ道草を喰う楽しみや誘惑もなくデイの友くる

消えかかる蝋燭の火を手で被いそおっと歩くような老いくる

介護度の1から5まで極めたりここまでくればうれしさもある

言い分はあるといえどもどのくらい生きたいのかと百歳に問う

墓地のみが混雑すると言うなかれわれの他には村医者はなく