(2018年4月)

しょうざんの里   平岡泰子

 

紅葉の散り果てし頃これという目的もなき旅思いたつ

わずかずついつしかややに耳遠くなりたる人と三日の旅を

六十年目の秋と気付いていないだろう車窓に本を読み耽ける人

ウール地の着物を拡めたちまちに財をなしたる人ありしとか

杣山を開きて夢を托したか洛北に三万五阡坪ほど

消失の運命にあった古寺や茶室を林に点々と置く

木造りの培われ来し簡素なる日本古来の匠の技を

大酒樽に茅葺きの厚き屋根を置き二人でたしなむ茶室ともなす

思いつきだけではなかろう成し遂げた一人の男の切なき願い

岩山の谷合に流れあり瀧もあり水音を聴きつつ林をめぐる

窓を開ければ鷹が峰なり花札のぼうずめくりで見た様な山

ひらがなでしょうざんの里〟とその人の名字が松山だからですって

法然院の墓所の掃除夫爺と姿ほうき片手に話しかけくる

その女の三回忌は過ぎ霜月の十三日なりし東山法念院

その女との晩年二十年程の濃き厚き交り真珠のような

心酔し〝空海〟を読みし日のありて東寺をめぐる旅のおわりに

ほほけたる穂を伐り薄は黄金の色となりたり葉はよみがえり

寒風に揉まれ晒され庭隅のすすきはのたうちながら華やぐ

吹き止まぬ師走の風に四五日ですすきひと群かろがろ枯れる

栴檀の葉はなべて散り枝先にまろまろと残る青き花実は